ありがとう

はい。はじめちゃん。



なんて美雪から手渡されたのは・・・・・・チョコレート。
今日はまだ2月14日じゃない。

「あさってじゃなかったっけ。バレンタインデー。美雪ちゃん。」
記憶力では・・・・・・この手のイベントの記憶力では彼は他の追随を許さない。

「そうよ。まだ今日は12日。これははじめちゃんの分じゃないの。」

高名な祖父を持つ少年は髪をくいくいとかきむしり幼なじみから出された判じ物に頭を使う。
ジッチャンの名にかけてと言いたいが昼の弁当を食べたあとの満腹感であまり頭が働かない。

降参。



「なんで二日も前にチョコくれるわけ。つか、おれの分じゃないってことは剣持のオッサンの分か?警視庁になんてさすがに度々いく用事なんておれだってないぞ。」
そんなことわかってますよーだと舌を出した美雪のスカートが風に揺れた。
あうっ。
あと少しで見えたのに。
ここは屋上だから風が気持ちいい。









はじめちゃん。

「アメリカではオトコノヒトがチョコレート贈ってもいいんだよ。知ってた?」
「知ってまふ。そのふらい。」
パンツちら見えを期待していたのがばれてほっぺたに思い切りびんたされた。
「はじめちゃん、あたしには隠し事できないね。」

そのチョコははじめちゃんの好きなひとにあげて。
「ちゃんと恋が叶うように願いながら作ったんだよ。」
・・・・・・。

「意味がわかりません。美雪さん。」
とぼけてもだめ。

とぼけるつもりはなかった。
でもばれてるとは思ってなかった。
へくしっとくしゃみが出た。いつもなら美雪が困った顔して「はじめちゃんたら鼻が垂れてるよ。」ってハンカチを貸してくれるのに、それがない。



幼なじみってなんか切ないよね。
美雪が言った。
「小さいころから自分は絶対はじめちゃんのお嫁さんになるんだって思ってた。今だってなれればなりたかったけど・・・・・・あたしじゃだめだってわかったの。」
もう。
ここまで女の子に言わせたんだよ。はじめちゃん!









「らしくないぞ。好きなくせに嫌いなふりばっかりして気持ちごまかして。そんなのはじめちゃんらしくないよ・・・・・・。」
半べそをかく美雪を慰める役は・・・・・・おれじゃない。
そんなことなんだかわかってた。
「男らしくないって言いたいんだろ。おれのこと。」
うんとまっすぐな黒髪をした少女は頷いた。

あたしはじめちゃんが好きだよ。
「ちゃんと告白したからね。ふられたら戻ってきてね。」



ぎゅっと紙袋を押しつけられた。
ふられると思うけど。すかれてる自信全くないしとはじめは脳裏によぎったひとのことを考えた。

おれ、男だし。
高校生だし。
小遣いないし。
綺麗なお姉さんも捨てがたいし。
おしゃれじゃないし。
車持ってないし。高校生だもんな。
自転車(チャリンコ)だし。
酒も飲むと逮捕されそうだし。
大人のいけそうなトコいけそうもないし。いきたいけど。
エロDVDも好きだし。
頭良いけど悪いし。
趣味合わないし。
いやおれは将棋はまずまずできるぞ。
五目並べなら無敵だ。
じゃなくて・・・・・・全然女じゃないし。


女じゃないんだよ。おれ。
でも、好きになっちまったと思う。












「なんで美雪にはわかんだ?」
ばかね。
「あたし、はじめちゃんのことばかり見てるもん。はじめちゃんが誰を見てるかくらいわかるんだから。はじめちゃんのばかあ・・・・・・。」

美雪はいつも背中を押してくれた。
どんな事件でも自分を信じてくれていた。



「ありがとうな。美雪。潔く男になって・・・・・・柄じゃないけど散ってくるわ。」
何度も撫でた美雪の頭を撫でた。

ほんと、ありがとな。



どんな結果になってもいいから、「ほんとの気持ち、言ってくるから。」

雪が降ってきた。さっきまで日当たりがよかったのに。
でも美雪が笑ってる。



それなら、いいやとはじめはうーんと背伸びをした。



2009/12/10 (木)